2022年前期のNHK朝ドラに、沖縄を舞台にした「ちむどんどん」が決定。
アフターコロナの時代を睨み、沖縄では撮影場所を巡る”聖地巡礼”に、早くも大きな期待がかかっている。そこで、このシリーズでは「朝ドラの経済効果」について、徹底検証。今回は前回に続いて、2013年前期に放送された「あまちゃん」の経済効果について、もっと具体的にデータを駆使して検証してみよう。
「北三陸あまちゃん観光推進協議会」を発足
「あまちゃん」は、人気脚本家・宮藤官九郎がNHKで初めて手掛けた連続テレビ小説。東北・北三陸の小さな田舎町の海で海女さんを目指すヒロインが挫折を乗り越えて、地元アイドルになるといった物語である。
その前半・故郷編の舞台が、三陸海岸にある架空の街「岩手県北三陸市」。そのモデルになったのが岩手県久慈市と、その周辺4町村(洋野市 野田村 普代村 田野畑村)というわけだ。
朝ドラ「あまちゃん」の放送が決定すると、ロケ地となる「5市町村」と地元の商工会や観光協会をはじめとする「27の関係団体」が「北三陸あまちゃん観光推進協議会」を発足。「あまちゃん」の放送開始に向けて、「久慈版ロケツーリズム」の推進に取り組むことになった。その実態については、この組織図をご覧いただきたい。
【あまちゃんハウス】あまちゃんハウスでは、ドラマで実際に着た衣装等を展示してます✨ 三鉄衣装や海女の衣装を着て写真を撮ることもできますよ📸#あまちゃん #久慈市 pic.twitter.com/TBaotDGUex
— 北三陸「あまちゃん」観光推進協議会 (@iwate_amakyo) May 31, 2019
「北三陸あまちゃん観光推進協議会」組織図
(1) メディアプロモーション部会
各メディアの番組収録の支援業務。番組誘致に関する業務。
(2) 受入態勢整備部会
関連商品の開発・施設や事業所のおもてなし向上事業に関する業務。
(3) 誘客宣伝部会
観光客の誘客・旅行商品の造成及びロケ地などの宣伝に関する業務。
ロケツーリズムとは!? 映画・ドラマのロケ地を訪ね、風景と食を堪能して人々の”おもてなし”に触れ、その地域のファンになることを「ロケツーリズム」という。 |
久慈版ロケツーリズムとは!? 「あまちゃん」で得られた地域の高揚感や知名度を最大限に活用して、ファンを増やし、観光資源を活用。おもてなし向上に努めると共に、新たなロケを受け入れ、持続的に地域の魅力を発信する取り組みを推進する。 (例1)「久慈秋祭り」 ドラマにも登場した「秋祭り」に主演・のんも参加。大勢の観光客が訪れた。 (例2)「聖地巡礼」 「小袖海女センター」や「喫茶モカ」といった、人気スポットを巡る観光客がうなぎのぼり。こうした準備を整え、2013年4月1日「あまちゃん」放送開始。 ドラマのヒット共に、朝ドラ「あまちゃん」は空前絶後の経済効果をもたらすことになる。 |
大ヒット「あまちゃん」ブームが、終わらなかった理由
朝ドラ「あまちゃん」ブームは、どれほどのものだったのか。まずはわかりやすく、「ドラマ放送年」(2013)と「放送開始前年度」(2012)の観光客の人数を比較してみよう。
久慈市内の主要8施設 | その中の小袖海女センター | |
2012年 | 1,084,438 人 | 4,904人 |
2013年 | 1,649,132 人 (対前年比1.5倍) | 203,104人 (対前年比41.1倍) |
ドラマのメイン舞台となった「小袖海女センター」には、ドラマを観た視聴者が前年度に比べてなんと40倍にあたる20万人が殺到。そこで果たして、どれくらい経済波及効果が得られたのか。岩手県と久慈市のケースを比較してみよう。
岩手県内 | 久慈市内 | |
経済波及効果 | 32億8,400万円 | 9億6,500万円 |
第一次波及効果 | 28億 200万円 | 7億2,600万円 |
第二次波及効果 | 4億8,200万円 | 2億3,900万円 |
ちなみに、
※ 第一次波及効果とは、観光資源が増加することにより誘致される生産活動の効果。
※ 第二次波及効果とは、第一次波及効果による雇用者や企業の所得倍増。消費額が増えることによって誘発される生産活動の効果。
しかし朝ドラ「あまちゃん」による経済効果は、決して一過性のものでは終わらなかった。
それを裏付けるデータが、こちら。
久慈市内主要8施設 | |
2014年 | 1,389,354人 |
2015年 | 1,298,382人 |
2016年 | 1,104,209人 |
2017年 | 968,642人 |
番組放送の翌年から3年間に渡って、久慈市内主要8施設の利用者は100万人以上の観光客を維持。こうしたケースは、他の朝ドラによる経済効果と比べても珍しいと言わざるを得ない。
これは、「あまちゃん」に度々登場した「じぇじぇじぇ」が、その年の新語・流行語大賞に選ばれたことも、大きな要因の一つだが、それだけではない。
「あまちゃん」をきっかけに、地域活性化につなげた秘策
では100万人にものぼる観光客は、一体どこから来ているのか。小袖海女センターで、2013年から2016年までとった「都道府県別訪問ランキング」を紹介しよう。
(1) 岩手県
(2) 青森県
(3) 東京都
(4) 宮城県
(5) 神奈川県
(6) 埼玉県
(7) 秋田県
(8) 千葉県
(9) 山形県
(10) 北海道
東北各県は勿論の事、朝ドラを観た東京をはじめとする一都三県も殺到。これに加えて年を追うごとに、番組の放送を見た台湾をはじめとする海外からの観光客も急カーブを描いて増え続けている。
「北三陸あまちゃん観光推進協議会」による用意周到な準備と、朝ドラ「あまちゃん」の爆発的なヒットが合間って、経済効果はうなぎのぼり!!
その結果、「ロケ地から日本を元気に!」をテーマに、日本全国のロケ地を追って来た雑誌「ロケーションジャパン」が、その年最も人を動かし、まちの観光を活性化させた作品と地域に贈る「第4回 ロケーションジャパン大賞」に朝ドラ「あまちゃん」及び、三陸のロケ地が決定。
さらに、過去の映画やドラマ、アニメのロケ地に選ばれた後、一過性のブームに終わらせずに、そのロケ地を活用して効果的に活性化につなげている地域と組織を表彰する「第2回 ロケツーリズムアワード」にも、朝ドラ「あまちゃん」の舞台となった岩手県久慈市が、見事「地域大賞」を受賞することとなった。
朝ドラ「あまちゃん」による経済効果を検証して来たこのシリーズ。2013年の放送後も100万人を超える観光客が毎年殺到。ではなぜ「あまちゃん」ブームは、一過性に終わらなかったのか。最後に「北三陸あまちゃん観光推進協議会」の取り組みについて、詳細を検証してみよう。
朝ドラで”ロケツーリズム”を成功させる法則
「ロケツーリズムアワード地域大賞」に輝いた「北三陸あまちゃん観光推進協議会」。取り組みの特徴は、2013年の放送から年を経た今も官民一体で、ロケ地を巡るツアーやサミットを毎回企画して、「あまちゃん」ファンを「北三陸」ファンへと結び付け、リピーター確保につなげた点が挙げられる。
その主な取り組みを、具体的に3つ挙げてみよう。
全国ふるさと甲子園
人気ドラマや映画のロケ地になった全国55地域が、我が街自慢やご当地グルメを通して、「みんなの行きたい街NO1」を決めるイベント。2015年から4年連続出場。
2015年(圏外)、2016年(圏外)、2017年(10位)、2018年(4位)と、「行きたい街」ランキングの順位を確実に挙げ、全国区の街として、その名を知らしめるまでになった。
あまちゃんサミット久慈
2015年から始まったイベント。2015年には、「観客参加型トークイベント」と「あまちゃん」の音楽を担当した大友良英&あまちゃんスペシャルビックバンドによる「あまちゃん音楽祭」。2016年には、「あまちゃんハウス」を舞台にあまちゃんファンが集結。2017年には小袖漁港で「北限の海女の素潜り実演」。2018年には、1泊2日のロケ地巡りのツアーを開催。場所や内容を変えて、ユニークなファンサミットを開催している。
ロケツーリズムを積極的に展開
朝ドラ「あまちゃん」のファン離れ、観光客の減少に備えてロケハンツアーを実施するなど地道な努力が実り、ドラマや旅番組、情報バラエティ番組が増え、2017年には朝ドラ「あまちゃん」放送時を上回るロケの受入件数を達成している。
こうした取り組みには、「ロケツーリズム推進」に必要な4つの指標が隠されている。
これが朝ドラ「あまちゃん」が、放送後も観光客が訪れる秘密なのかもしれない。
(次回へ続く)
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